Vol.02
甲状腺腫瘍特定システムを用いたエコー検査レポートの自動化
伊藤病院 北川 亘氏、天野高志氏にインタビュー
イントロダクション
甲状腺疾患の専門病院は、日本には数少なく貴重な存在です。そのひとつ、伊藤病院では、1日に約1300人の検査や診療を行っています。
今回、伊藤病院とインキュビットは、臨床検査技師によるレポート作成業務をAIを用いて自動化するプロジェクトに取り組みました。
甲状腺腫瘍の早期発見および経過観察には、甲状腺エコー検査がかかせません。臨床検査技師がエコー画像を見ながら患者の甲状腺を観察し、甲状腺腫大の有無や甲状腺腫瘍の大きさや形状などを確認し、画像として保存します。その後、患者ごとにシェーマ図(医者がカルテを記すときに利用する、身体部位の絵図)を含むレポートを作成し、最終的に医師がそのレポートと保存された画像を参照しながら診断を行います。
診断レポートは医師の治療方針の判断に大きく関わるレポートであるため、高い精度が求められます。本プロジェクトでは、レポートの正確性は維持したままAIを用いてその作業を自動化することで患者一人当たりの検査時間を短縮し、患者満足度のさらなる向上と、より広範囲の患者へ質の高い医療サービスを届けることを目指しました。
共同研究にあたり、院内でどのような協力体制が敷かれ、どのような手ごたえを感じていたのでしょうか。プロジェクトに携わった、伊藤病院外科医師の北川亘氏と臨床検査技師の天野高志氏との対談で、伊藤病院にとっても初の取り組みであったAI開発の裏側を紐解きます。
プロジェクト概要:AIを用いた腫瘍の自動検知とシェーマ図作成の自動化
甲状腺エコー画像から腫瘍の有無と大きさを判定、位置を特定し、医師が診断に用いるエコー検査レポートを自動で作成するシステムの共同研究開発。
臨床検査技師がエコーを撮影し、複数の画像から腫瘍の大きさや位置をレポート化する作業をAIで自動化することで、外来患者の待ち時間や医師の手待ち時間の短縮と、臨床検査技師の負担削減が期待される。
クライアントが持つ課題
伊藤病院では、1日450件の超音波検査を行っているが、エコー検査とレポート作成にはある程度の時間がかかり、患者は時にはエコーを受けるまで3~4時間ほど待つ場合もあった。
Incubitのテクノロジーを用いた課題解決までのアプローチ
- 課題解決の設計:「診断」ではなく「診断レポートの作成」を対象とし自動化することで、作業の時短化を実現。
- 腫瘍の自動AI検出のみならず、シェーマ図(医者がカルテを記すときに利用する、身体部位の絵図)の作成も自動化。
- 開発Phase1: 甲状腺のエコー画像から腫瘍を自動検出する
- 開発Phase2: 自動検出した腫瘍を基に、異なるサイズのマークを正しい場所に配置したシェーマ図を作成する
ポイント
- 診断自体は医師の業務として残し、レポート作成を自動化することで、AIの誤認識のリスクをカバーしつつ、時短を実現
体制
クライアント:伊藤病院
ディレクター:北村尚紀(Incubit)
ソリューションアーキテクト:坪井りん(Incubit)
PM:Julia Rayan(Incubit)
エンジニア:Rayan Elleuch(Incubit)
エンジニア:Paul Neculoiu(Incubit)
伊藤病院
「甲状腺を病む方々のために」の理念のもと、1937年より甲状腺疾患の専門診療に取り組む。年間のべ37万人を超える患者を診療。名古屋には2004年に開設された分院、「名古屋甲状腺診療所」があり、2017年には札幌市にさっぽろ甲状腺診療所が開設されている。
長期にわたる治療経過や希少症例の研究など学術活動にも積極的に取り組み、その成果は日々の診療への反映、そして国内外にも発信。
北川亘(外科医師)
伊藤病院 診療技術部 部長
外科医師として診察・手術・検査を行うとともに、放射線検査室、臨床検査室を含む4部署を統括。患者様主体の診療体系を作ることを目標に、最新の機器等も積極的に取り入れつつ、技術向上、専門性・迅速性の向上に取り組む。
天野高志(臨床検査技師)
伊藤病院 診療技術部 臨床検査室 主任
50名の組織である臨床検査室の主任として、超音波検査や病理検査を担当している。