第3回 AI×地質調査の現在

国家レジリエンスの強化に発想の転換

目次

現在、内閣府主導のプロジェクトとして「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」(SIP)が動いています。当初からAIのブラックボックス化を問題視されていましたが、今回開発したシステムを知ると状況は反転したと言います。「足元の部分にAIを入れる」とは?

土砂災害とAIは相性が良くない?

天野 : SIPでは、当初、土砂災害の危険箇所がAIで正しく汎用的に運用できるのか、会議の中でも疑問視されていて、あまりAIということを強調すべきではないのかもねという雰囲気でした。
その中でわれわれは、技術者が実際に地形判読をして災害危険箇所を抽出するには日本全国だと30年掛かるが、今回開発したAIを使うと2年 で終わりますということを説明しました。時間という概念でとらえると、すごい改革ではないか、ということになった。AIは何かすごいことをやってのけるイメージが強いんだけど、足元の部分にAIを入れるということは非常に有効だねということになって、今では良い評価をいただいている。

発想の転換ーAIと技術者をハイブリッドに

天野 : ただ、AIに完璧にコントロールされるようなことはよろしくないといわれています。それは僕らもそう思っています。人の命に関わる話なので、人がどこに関与すべきなのか?ざっとAIで災害危険個所を抽出して、そのあと地形を更に熟知した応用地形判読士という専門家が最終チェックをする。
AIと技術者をうまく組み合わせてハイブリッドにするということです。すでにそういう方向でいきましょうという流れになっている。

北村 : 今まで技術者の方が、限られた時間と手足でしかできなかったところを、1万のパワーを使えるようなそういうツールとしてAIを使ってもらう。AIと技術者のハイブリッドがもっといろんな領域で進んでいければなと思います。

AIのプロセスの透明化が課題

情報企画本部 本部長 天野氏

天野 : AIによる結果が、どういうプロセスを踏んで出てきたものなのか、後で精度向上にはどのプロセスに手をいれればよいか、ということをしっかりと分かるようにしようということがいわれています。
AIを使った結果、このような答えになりました、ではなくて、ここはルールベースでこうやりました、ここは画像でやりました、ディープラーニングでやりましたとうまく整理して、できる限りAIの処理内容を分かるようにしたいと考えています。
なぜかというと、多くの人はやはりAIに対するまだまだ不信感があると思います。人の命を預かる市長さんがAIで出てきた答えだけで避難判断をさせるということはないはず。こういう考え方、こういうルールに基づいて、こういう答えがここに出てきていて、さらにここに専門技術者を入れて出てきた答えです、といった、専門でない方が見ても理解できる、そういう仕組みづくりの方向に変わりつつある。
これは非常に重要なテーマです。AIがもっと社会の中に認知されていくには、特にこういったプロセスの明文化が必要です。

今回開発したAIは?

左:計測システム事業部 副事業部長 谷川氏
右:情報企画本部 本部長 天野氏

谷川 : 今の話は今回開発したシステムの成果とリンクしている話です。このシステムは”見え”ている。何を抽出するかもはっきりしているし、斜面の勾配もルールベース。0次谷を出力しているけれども、それはある技術者がつくったものだって言っているし、まったく”ホワイト”です。

天野 : 結果的に良かったです。非常に良かった。

北村 : そうですよね。可能な範囲での開示というか、最終的に説明のできる構成にはなりましたよね。
やはりおっしゃっていたように、そもそもAIが食べている情報が絶対的な、客観的な正解ではないという性質がある中で、どれだけ説明可能にするか、納得してもらえる情報にするのかという点も必要な機能なのですね。

まとめ

  • 命が関わるため、判断の正しさが求められる土砂災害への汎用的なAI導入は当初疑問視されていた
  • AIがやるのはすごいことだけではない。専門家が、仕事の基礎的な部分を効率的に行うツールとしても活用できる。AIと専門家のハイブリッド。
  • AIをツールとして運用するには、非専門家がわかるぐらいにAIがやっていることも説明可能であるよう整えていく必要がある