第1回 「地質調査」でAIを用いた新規事業開発

AIで全国の災害危険箇所を抽出する。

目次

解釈ベースの「地質調査」という世界にAIを導入しようとした応用地質。設定した課題は「災害危険箇所の抽出」でした。どのようにAIを活用しようというのでしょう?

正解はなく、解釈がある「地質調査」

北村 : 理学分野の「地質学」を土木工学の世界に持ち込むことで「地質工学」の市場をパイオニアとして開拓している応用地質さんですが、まずは簡単にお2人の役職についてお伺いできますか。

天野 : 私は応用地質の情報企画本部長という立場で、2017年から、IoT、AI、クラウド、ICT等の情報技術を使った、業務改革と新たなビジネスの創出を指揮しています。

谷川 : 僕はダムだとか、あるいはトンネルだとかの地質調査をメインにやっていた地質技術者。その後斜面崩壊というか、そういったものをずっとやってきて、なぜかよく分かりませんが計測というところに流れ着いていって。そんな中、今回の「災害危険箇所を抽出する」というざっくりした話がありましてね。

谷川 : 地質学をベースにしたわれわれの会社というのは、地質の知識を有して、ある哲学に基づいて解釈をし、絵を描ける人たちの集団です。
地質学というのは、理学の中でも特別というか、理学ではないと僕は思っているのですがね。そもそも事実があるのに事実ではないんですよ。事実は絶対にあるはず、正解はあるはずなのに、地中の下は見えないので解釈がいろいろあるわけです。

ICTに接続させたAIの新規事業

情報企画本部 本部長 天野氏


北村 : 今回のプロジェクトの発足は、どのような経緯だったのでしょうか。

天野 : 私が赴任した当初、まず、応用地質がこれまでにないビジネスを創出していくのに必要な要素技術は何だろうと考えていました。色々考えている中で、谷川さんの計測システム事業部が持っているセンサ機器をIoT化して広域的な災害モニタリングを実施するサービスはあるかな。と。それを受けてまず最初に取り掛かったのが、トヨタ自動車、KDDIと協業した次世代の防災・減災サービス「自治体向け災害対策情報提供システム」です。
ICTを活用したビジネスのスタートは切った。では次にAIを使って何をしようかと。まずは各事業部にヒアリングをして、十数個のアイデアを出してもらいました。その中から、IoTセンサのモニタリングと合わせて一番実現性があって、ビジネスに近いのがなんだろうなということで最後に残ったのが、今回の「災害危険箇所を抽出」というテーマでした。

技術者が地形を判読する

計測システム事業部 副事業部長 谷川氏


北村 : 「災害危険箇所の抽出」。どのような作業が必要でしょう。

谷川 : まず、災害危険箇所の抽出の一環としては、「地質踏査」というものをやっています。現場に実際に行って斜面がどういう状態にあるのかというのを目で見ていくということがあるのだけども、それは時間も掛かるし技量も要る。なので、地質踏査の前に「地形判読」という作業をやって、だいたい当たりを付けてから絞っていこうというのがわれわれの一般的な調査の流れです。
では地形判読というのは何かといわれると、衛星写真を使って地形を立体視し、その中にある傷をプロットしていく。例えば地滑りの頭部の亀裂を見つけてやる、みたいなことをどんどん繰り返していって当たりを付けることになるわけですが、その作業も経験と高度な技量が要るわけです。地形判読士なんていう資格があるんだけど、ある一定の地形を見られる技量の人をピックアップして、その技量がある人が地形を見なければ誤るよ、という制度です。

天野 : 正式には応用地形判読士。全国に、最新でいくと112名。うちには12名。全体の約1割が在籍することになります。(2019年度)

日本全体を判読したい

谷川 : 今回のプロジェクトのため教師データを作りましたが、東峰村の図面範囲を判読するのに応用地形判読士が1カ月掛けている。

天野 : あれはどのくらいの大きさだっけ。

谷川 : 2万5,000分の1の図幅です。

北村 : 特殊な技能を長い時間要する作業なんですね。

谷川 : ええ。僕らの仕事はあるところに範囲を絞り、そこは崩壊する崩壊しない、施工時の問題があるかないかということを見るのですが、範囲を絞れば作業はそんなに大変なことではない。しかし、狭い範囲ではなく日本全体を見るということは、保全が必要な対象を把握するのに非常に有効に作用すると思うのですね。道路のこれからの計画が立ったり、あるいは道路の中のリスクが分かったりということがありますから。

まとめ

  • 応用地質は、見えない地中を解釈して様々な絵を描く、地質調査の会社
  • ICTの「国土の災害のモニタリング」事業に接続させる形で「災害危険箇所の抽出」を課題としたAI事業を立ち上げた
  • 通常小さな区画に絞って危険の有無の判断をしているが、日本全体を判読して災害危険箇所を抽出したい