第2回 AI×地質調査の成果
AIの活用広がる。鍵は教師データの設計。
目次
今回開発したAIは、想定外の他事業で活用したり、非専門家が活用したりと、AIの運用に確かな手応えを感じる結果となったという両氏。開発したAIの鍵となるコンセプトは何だったのでしょうか。
鍵は教師データの設計
北村 : 今回、広範囲の地形を短時間で判読し、災害危険箇所を抽出するAIを開発しました。
天野 : ええ。実は今まで地形判読をAI化しようといういろいろな試みがありました。その中で今回のプロジェクトでは、技量のある技術者の解を教師データにした。ここに大きな特徴があります。正解があるのかといわれると、それは難しい。そうであれば、技量の高い人を教師データと仮定して、技術者とAIのハイブリッドにすればよいという考え方です。
ピンからキリまでいる地形判読技術者の、どちらかといえば上位のほうの結果を学習した地形判読図を短時間で作成できるということ。これは、ものすごく大きなメリットがある。間違いなく。
それと、抽出した危険箇所は、現場に行ったら違うかもしれない。全ての箇所を現地踏査するわけにはいかないわけですよね。しかし、このシステムを使うことで、斜面の状態や、0次谷が集中しているところなのか、規模が大きいのか、急斜面なのか、いろんなことを机上で網羅的に把握することができる。重点的に現地踏査する場所を見つけることができて、ここに技術者の知見を再注入することができると考えています。
今期の受注に期待
北村 : 実際に現在はどういう利用のされ方をしているのでしょう?最終的にはアプリで皆さんが利用できるところまで持っていくことができました。
谷川 : 本来は、この話というのは砂防防災分野なんですね。その分野の人が多用するべきだと思うのですが、僕に言わせればできていないなという思いがあります。
本来の砂防の人たちは、例えば河川のところに0次谷がたくさんあって、土砂流出していくと堆積物がたくさん増えていくから河川の流れに影響がでてくる、なので上流側の検討をどんどんやらなくてはいけないということになるんですけど、現在はそこまで至っていないという状況です。これから2020年度の仕事として、彼らがこのシステムを使ってどんどん仕事を取っていくことを期待していますね。
別事業に活用。可能性の広がりを実感。
天野 : 昨年台風19号で多数の電柱が倒壊しました。電柱の倒壊原因で何が大きかったかというと、裏山が崩れた、木が倒れたことで電線に負荷がかかって電柱が倒れた、というケースが非常に多かったということを電力会社の方からお聞きしました。その際今回のAIに着目していただいて、これは使えるのではないのかという話が出てきた。今プレゼンをするために、試行エリアで電柱の位置と今回抽出したAIの結果を突き合わせてくると、やはりこの辺りは非常に0次谷の災害危険箇所が多くて、電柱もかなりの密度で立っている。従って、ここは対策したほうがいいよねみたいな、こういうことに使えるのではないかという流れがあります。
天野 : 砂防防災分野で使うというのは本流です。ただ、今回みたいなシステムができると、われわれが想像していなかった場面で有効だということが見えてくる。当初、電柱倒壊の問題は、電柱にセンサーを付けてモニタリングすればいいのではないかと思っていました。ところが土砂災害が倒壊の大きな要因になっていることがわかった。確かに位置関係から見れば裏山が災害危険箇所であれば事前に対策を打つ、もしくは電柱を地下に埋めるとか、いろいろやり方がある。なるほどねと、使い方が結構広がるなと。可能性が非常に増えたというのは事実。
地形判読の非専門家が活用。AI開発に確かな手応え。
谷川 : 地域ごとのハザードマップと0次谷を重ねることで、そのハザードマップの妥当性を見ようという話と、ハザードマップと地形図を用いて立体化して、その描像と実際の地形がリンクしているかという図を出し、その地域の弱点をプレゼンするということをやろうとしています。
谷川 : 実は、このプレゼンのためにシステムを使っているのは地形・地質のことなんかまったくど素人である物理探査技術者。これがなかったら彼はこんな絵を出すこともできなかったし、理解もできなかったと思う。技術者でなくたって、その価値さえ分かれば別の用途で使うことができるということは現実として起こっています。もしこのシステムがなかったら砂防・防災事業部に頼んで、1カ月掛かりますとか言われて、ではやめようかという世界だったかもしれません。
天野 : このシステムを使うと解析にかかる時間は、10㎢で約30分です。いろんなアプローチが出てきたなと思っています。
次のステップー汎用的に使うために
谷川 : 1つ足りないところがあると思っています。ヒット率という話です。地形の傷跡は抽出しているけれども、ではそこで災害が起こるの?というヒット率。今後これを検証する必要がある。傷跡が崩れたところと抽出したところが一致していくはずだと考えています。
今回開発したシステムを世の中でいろんな人に使ってもらおうとするならば、ここは外せないポイントだなと思っています。だから、衛星画像を使って傷跡を定期的にモニタリングして見てやるということが必要なのではないかとは思っています。
天野 : まだこのAIも完成ではないしね。次のステップにいくためにチューニングしなくてはいけないところというのは、まだまだあります。
まとめ
- 過去にも地形判読のAI化の試みはあったが、技術者の技能を教師データにしたのが今回の開発システムの特徴。
- 今期、開発システムを用いた受注に期待。
- 想定外の事業に開発システムを活用できた。今後の事業の広がりに期待。
- 開発システムを使うことで地形判読の非専門家が防災事業を企画した。今後の事業の広がりに期待。
- 今後この開発システムを汎用的に使っていくために、抽出した危険個所が実際にどの程度崩れたのか検証していきたい。
02AI×地質調査の成果
AIの活用広がる。鍵は教師データの設計。