第5回 AI×地質調査の今後

業界に先駆けて技術者の経験的知識をAIへ

目次

地質調査の業界は変化を嫌う。しかし効率・高利益を考えればAI導入は進むべき道と谷川さんは言います。業界の先陣を切った応用地質、今後のAI開発についてはどのように考えているのでしょうか。

もっともっと詳細な地形図の解析を

計測システム事業部 副事業部長 谷川氏

北村:今後のプランをお聞かせいただけますか。

谷川:1つは、2万5,000分の1の地形図では物足りない。もっともっと詳細な、レーザープロファイラーで作るような詳細な地形図についても、地形解析をしたいと思っています。

天野:今は10mメッシュのデータだからね。

谷川:ええ。これでは計画する程度にしか使えないという指摘は当たり前のことであって、もっともっとフォーカスしていく。そうすると我々が実務でやっているような小さなエリアの解析を、ぐっと時間短縮できるというのが、おそらく近い将来のゴールだと思います。そこまでいくと、”地形”という語の指す内容そのものがAIになってくる。技術屋がチェックするというプロセスは前提ですが。

予測ー災害犠牲者ゼロに向けて

天野:災害犠牲者ゼロを考えると、災害危険箇所を抽出して、センサーを設置してモニタリングするのは、今の瞬間を見ているだけなんです。なので、避難してもらうことを想定すると「予測する」ということを考えないといけない。今は外力が入っていないでしょう。雨とか風とかね。これを入れたときの予測にAIが入る余地があるだろうなと考えています。そこが、今回の大きなプロジェクトのゴールなので、そこまでいきたいですね。

北村:多分、AIは解釈に関しては人間と同じことができると思うのですが、予測に関しては人を超えます。なぜかというと、予測には過去に起きた正解データと事象のデータセットがあるので、予測は人ができなくてもAIができるということが起こりうる領域だと思うのですね。ここの部分でかなりいろいろできるかなと思います。
地形というお話だと、単一のデータではなく、複数のデータを組み合わせてやれたらなというふうに個人的には思っています。

技術者の経験的知識をAIへ

計測システム事業部 副事業部長 谷川氏

谷川:地形以外にもやりたいことが多々ありましてね。
1つ言うならば、僕はもともと地質技術者ですから、地質技術の中にはたくさんの経験的知識というのがあるのですね。ある人はすごく知識があって、地表に現れているある岩石を見たら、これはなんとかだと哲学的に言える。ではその知識とはなんですかというやつを解析する必要がある。その知識をもしAIに入れることができたら、例えば専門家が行かなくても誰かがぱちっと撮った写真からある解釈がでるわけですよ。それはもしかしたら技術屋の能力をどんどん食っていっていることかもしれないけれども、効率ということを考えたり、あるいはより高利益の会社にしていこうとするならば行かなければいけない道だと僕は思っている。
もう1つ。ボーリング[1]というのをやりますね。ものすごく重たいコアを並べ、亀裂をスケッチして1ミリ単位で人間が見なくたって、ほかのものでスキャンしてやれば分かるはずなのに、無駄だよねといつも思っていた。教師データがあったら、こういった諸々の大変な労力をしなくてよくなるのではないか。
ここも技術の話と哲学の話なのだけど、ある人が見たらこれはこうであるという解釈があるわけですね。その人は技術が高いですから、おそらくその人が言ったらそれが正解になるのです。本当かどうかは知りませんよ。正解になる。だったらその人の技術をデータ化してやって、そのデータを入れたAIが解析した結果を人間が見てやればいいではないかと。きっと今のやり方と同じことを画像処理するだけだと思うので。

変化を嫌う業界の先陣を切る

谷川:このように、やることは山ほどあるのですよ。僕らの業界の中ではね。ただやっている会社は1つもない。僕らの業界はどちらかというと、AIなどを使うといったそういうことを嫌う会社です。変化を嫌う業界。それを打開する必要があると思いますがね。そのためにはきっと、やってほしいことというか、やらなければいけないことがいっぱいあって、その課題解決の一翼をIncubitさんには担ってもらえるのではないかなと思っている。

北村:ありがとうございます。そうですよね、たくさんありそうです。
お話をいただいた時、すごいチャレンジングなことに挑戦されてる会社さんだなと思ったのを覚えています。うまくいくかどうかなんてこの世の誰もまだ知らない内容に、やってみようという決断と推進力。そしてプロジェクトを通じてずっと皆さんのすごい前向きな姿勢を感じていて、僕たちはとてもエネルギーをもらいました。

そして、チーム編成もとても良いなとも思っています。ビジネス側でちゃんと論理的な計画と決断をする方がいる。ビジョンを持って、何をやるかの優先順位をはっきりと決められる方がいる。地質が好きで、作業としてすごく推進してくれる若い技術者の方がいる。そこに僕たちも加わらせていただき、バランスの取れた良いチームになっているのではないかと思っています。今後のプロジェクトをご一緒できるのが本当に楽しみです。

まとめ

  • 実務レベルで詳細な地形図を解析できるようにしたい
  • 外力のデータを加え、土砂災害を予測したい
  • 地形判読のAIを応用し、技術者が持つその他様々な経験的知識をAI化していきたい
  • 現在、業界に他にやっている会社はいないが、効率・高利益を考えればAI化はこの業界にも必要

 

[1]  ボーリング;地盤に穴をあけ,地盤の構成材料(土)を採取してくること。採取した構成材料をボーリングコアと呼ぶ。