第4回 IncubitとのAI開発

50のAI会社から選び抜いたのはXXが決めて

目次

過去にAIの開発に失敗した経験がある応用地質。50社のAI会社の中からIncubitを選んだ理由は共に考えてくれるパートナーとしての期待だったと言います。わずか6ヶ月での開発が可能となった開発プロセスに迫ります。

50社から3社へ

北村:今回の地形判読プロジェクトでの、AI開発会社の選定のプロセスをお聞かせいただけますか?

天野:最初、コンサルタント会社に、AI企業のリストを出してもらったんですよ。

北村:どのぐらいあったのですか。

天野:40~50社あったのかな。
まず今回のプロジェクトでAIに解析させる領域を、画像、動体、データベースの3種類を想定していて、自然言語的なことを専門としている会社ははじくとか、どこかの業界に特化している会社ははじく、ということで十数社に絞り切ったのが最初。そこからあと会社の規模とかスタッフ数をいろいろと見ていって3社に絞ったんです。
その後で最初にお話ししたように、社内で土砂災害にテーマを絞り込んで。そのテーマでAIのプレゼンを、いわゆる企画提案をお願いしました。

求めたのは共に考えるパートナー

左:計測システム事業部 副事業部長 谷川氏
右:情報企画本部 本部長 天野氏

北村:たぶんファーストコンタクトから決定まで半年ぐらいあったと思うので、僕たちが今お仕事させていただいているクライアントさんの中でも一番時間を掛けて丁寧に選ばれているなという印象でした。

天野:今回選ぶAIの会社は、われわれの会社にとって単なる作業の委託先ではないと考えていたんですね、最初から。パートナーとして一緒にやる、もしくはグループに入っていただくということを想定していたんです。なので少なくとも各会社の社長さんがどういう方なのかということが、まず重要。そして、最初に選んだ3社の方々は、われわれの業界、われわれの仕事、今、谷川が説明したこういう事業をやってるということを知らないわけですよ。その上、難解なテーマを与えるわけなので、理解するのは大変だろうと。実際の業務フローも分からない中で、提案書をどのようにまとめるのかなと心配していました。自社の自己紹介をされても、困っちゃうしね。
そのときに北村さんだけが唯一、提案書提出までに何回当社に来られたかな。たぶん4、5回来られたと思うんですよ。われわれの求めるゴールが何で、どういうことをしていて、何が足りなくて、AIで何をカバーするのか、ということを事細かに聞いていただいた。AIの技術を持っているのでどうぞお使いくださいと、あなたたちのお役に立ちますよということではなくて、われわれの業界の中にAIをどのように導入することができるか、ということを一緒に考えてくれそうだなという印象が強かった。そういった理由で最終的に御社を選ばせていただきました。

北村:僕たちも、新しいイノベーションを生み出していきたいという方々の専門的な知見やデータと、弊社側の技術を組み合わせることで、新しいものをつくりたいと思っているんです。そういう意味では、僕たちもクライアントさんをパートナーだと思っています。今回、パートナーとして探してくださっているというところで選んでいただいてすごくうれしかったですね。

失敗の経験から

株式会社インキュビット 代表 北村

天野:このプロジェクトの前に、3次元地盤モデルをAIでやろうとしたんです。しかしこれは失敗しました。端的にいって技術的に僕らが求める答えが出てこなかったのです。

谷川:きっとわれわれの側に問題があると思うんですよ。何がゴールかを明確にしないまま、AIの会社さんに任せてしまって、これが欲しいんだって言うだけ。おそらくうまくいく方法はどこかにあるはずなのに、こちら側が考えてないのではないのかなと。われわれですよ。ヒントを与えていないというか。

北村:僕たちが意識していることは、何を解決したいか、何が欲しいのかというのは決めていただきたいんですが、それをどう実現するか、ここが僕たちの仕事だと思っているんですよね。どれだけ専門的なものであろうが、どう実現するか、どうゴールまで持っていくかは僕たちがなすべきことだと思っています。
なので僕たちはヒントをできるだけもらえるようにヒアリングさせてもらって、幾つかの手法をオプションとしてご提示する。その中でディスカッションをしながら、ではこの3つのうち何がやり方として一番良さそうですかという話を、専門的な意見も取り入れながら選んでいくということをすごく意識してやっています。着手前に筋のいい道筋というのがちゃんとできるようにしたいと思っていますね。

AIへの過剰な期待

天野:我々のクライアントが本当に必要としていることは限られた幾つかのことなのに、細かいところまで全部やろうとしてしまった。これはそもそも無理がある。技術者でも難しい世界であったのにね。そもそもできないことを、AIだったらできるのではないか、といった変な期待感を持ってやってしまったことが、失敗に繋がった理由でした。

谷川:手順があるはずなんですよ。最終的なゴールにたどり着くために、まず何かの成果を出して、次にいこう、というステップを踏まなければいけない。でも最初の成果を見て、いや、これは違うと言ってしまう人もいる。
だって僕らは思想家ですから、地中の中の本当のことなんか描けないのです。想像だったら、確からしい想像だけを出して、確からしくない想像は想像の中に置いておくべき。工学的に意味のあるところだけを出せばいいのだという割り切りになったときに初めて次のステップにいくのでしょう。

成功の決め手は選択と集中

北村:僕はわりと最初の段階で、今回のプロジェクトはすごく大きいなと思っていました。5年後ぐらいのビジョンを与えられた中で、ブレークダウンして、3カ月のプランニングに落としていきました。

谷川:ええ。最初は、空中写真判読と言ったかと思います。遷急線を引きたいのだ、尾根を引きたいのだ、全部出したいのだとかいろいろ言ったではないですか。それをもうどんどん捨てていった。

北村:捨てていきましたね。

谷川:もうそんなのどうでもいいと。0次谷に集中しようぜという話になった。そしてルールベースでやっていくとうまくいかないという話になって、やはり教師データを誰かが作るしかないんだという話をいただいて、それなら優秀な技術者に教師データを作らせようという流れ。しかしでは何を知りたいかというと、災害危険箇所抽出なのです。

天野:3次元地盤モデルも、支持層だけ分かればいいという答えだったら、できていたはずなんですよ。でも地層境界を全部引きたいという話になってしまったものだから失敗した。それはやはりビジネスを企画するわれわれの責任。いい勉強になった。

谷川:北村さんは、やれることとやれないことを明確に伝えていただいた。だから、その中でできることを選んだということでしょうかね。
これをやるとお金が掛かる、時間が掛かる、ではやめよう。これだけに絞ってやるとこれはできるかもしれないというのだったら、それを選択するというだけのことで。

プロセスを積み上げる

北村:今回は、3カ月のペースを2回行いました。最初の3カ月である程度の成果は出て、2回目の3カ月で汎用性を検証しました。実際のプロジェクトを進めるに当たっては、定期的にミーティングをしながらデータをいただいたり、報告をしながら進めていきました。

天野: AIへの取組みは、今回が初めてではないんです。前回の取組みでは1年ぐらい掛けて進めたもののなかなか精度が上がらなかった。そういうことから考えると今回は速かったなという気がしますね。
出されたスケジュールどおりに事が進んでいくというのがすごいよね。

谷川:僕は非常に良かったなと思うんですね。僕らの会社の文化として報連相がないというか、進捗を確認できない人たちがたくさんいるんですね。なんでかというと、一匹狼といいましょうか、優秀なやつほどコミュニケーションがないという世界が僕らの業界には実は根強くあって。
すごく頻繁に打ち合わせをして、いろんな提案をいただいたので、レスポンスをすることができた。それは非常に大きかったと思うんですね。あれが、すごく長い時間何もなくて、ぽんと打ち合わせがあって結果だけ出てきたら、それでは駄目だよねという話になって、またひっくり返る。そういうことがあまりなかった。積み上がっていったというのは良かったと思いますよ。

出口像を共有し検証する場

天野:フェーズごとにちゃんとアウトプットをイメージして、われわれとしてもそのイメージが共有できた。段階毎に、検証フェーズがつくられていたというのは良かったなと思っています。
われわれも分からないから心配なんですよ。何が出てくるんだろう?できているのかできないのかよく分からないみたいな。でもそれが途中で見えてくると、あ、いけそうなんだなと。

北村:やはりAIというのはシステムの設計書どおりできましたということよりも、実験とか研究に近いんですよね。実験をやっていくと新しい発見がプロジェクトの途中で絶対にあるので、その発見に基づいて方向性を変えていかないといけない場合がある。なので、一番最初に大きなスケジュールは立てたのですが、中でいろいろ、ちょこちょこ変わったりはしたというのを、一緒にお付き合いいただいて、回収できたのは良かったかなと思っていますね。

天野:御社の良さは、一緒にやってみて初めて分かります。今はいろんなところにお薦めしていますよ。

まとめ

  • 事業内容が特殊であり、AI導入は容易ではないことを想定。依頼を単に実行する委託先ではなく、どう実現するかを共に考えてくれるパートナーを慎重に探した
  • AIに過剰に期待すると失敗する。やりたいことをフェーズにわけ、1つ1つの機能は思い切って絞る。
  • イメージの共有と検証をフェーズ毎に行うことでプロセスを積み上げ、短期間の開発を実現した。